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あるコミュニティの根幹には、スムーズに運行されている公共交通システムがあり、住民は自宅からそれほど遠くないところで仕事をし、通学し、レクリエーションができるというイメージだ。これこそ、真の先進社会ではないだろうか。
それは、1000万もの人々が、騒音のすさまじい道路を公害にまみれながら、時速20キロメートルで地を這うように遅々としか動いていない渋滞の大都市といったイメージではない。新しい自動車技術や交通技術の開発だけではなく、コミュニティの再設計にも斬新なアプローチが必要だ。
これは、すでにインフラの大部分ができてしまった先進国にとっては大作業である。そうだとすると、発展途上国の方が実は有利なのかもしれない。
まずバランスの取れた、持続可能な交通システムのモデルを考え、それに相応しいコミュニティを設計し、作っていくことができるからだ。日本やアメリカのような国では、国民の声を上手にまとめ、強力な圧力を生み出さないかぎり、よりよい交通システムを作ろう、コミュニティを再設計しようという動きは生まれない。
もちろん、適切な公共政策を取ることで、この動きを促進することができる。社会に対するコストをもっときちんと反映するよう、ガソリン税や車への課税を増やしたり、公共輸送機関を支援したりできる。
しかしこのためには、消費者やユーザーであるわれわれが、「このように変えたいのだ」と声をあげなくてはならない。われわれがそれぞれ車を所有し、結果などお構いなしにどこへでも運転するというのでは、交通システムを作り直すことなど到底できない相談だ。
第一章でも述べたが、われわれ一人ひとりが率先してあるべき姿を示していかなくてはならないし、政治的にも積極的に変化を求めていかなくてはならないということを、認識する必要がある。そして何よりも、大きな構図でとらえなくてはならない。
今、交通システムを作り直さなければ、経済を再構築して環境を破壊しない持続可能な社会を創ることも無理だろう。そして、持続可能な経済にならなければ、経済自体がぼろぼろと崩れ出すのも時間の問題なのである。

多くの発展途上国政府にとって、これまでの軍事安全保障よりも、食糧安全保障が新しく最大の頭痛の種になってきているのかもしれない。第一部で述べたように、世界の人口は毎年8000万人ずつ増えており、2050年には、九四億人に達すると予測されている。
ニ○世紀の後半五○年間には三六億の人口が増加したが、一二世紀の最初の50年間には、さらに三三億増えるとの予測である。この五○年と次の五○年の違いは何かといえば、これからの50年間に増える人口はすべて、発展途上国に加わるということだ。
今からちょうど200年前の1798年に、Tは、食糧と人口に関する有名なエッセイを書いている。彼は、食糧と人口の競争を取り上げ、食糧生産の伸びが人口増加の伸びについていくのは難しいだろうと述べた。
それから200年後の今日、多くの発展途上国の政府が、今なおこの問題で苦労している。先進国の国民は栄養過多で苦しんでいる。
一方で、食べられずに苦しんでいる人々が多数存在する。近年飢鰹の起こる回数は減ったとはいえ、世界の多くの人々が、現在でも飢餓すれすれかそれ以下で生活している。
アフリカやアジアの、やせた土地に住む人々を中心とする約10億人が、やっとのことで一日一日を生き延びている自耕自給農民か貧しい都市生活者だ。このような人々が、何とか食いつなごうと死にものぐるいでもがく中で、知らず知らずのうちに環境が犠牲になってしまうことも多い。
ゆきすぎた放牧で土地を傷つけたり、料理用のたきぎを集めているうちに森林がどんどん減っていったりする。この飢えた10億人は、明らかに食べ物が不足しているのだ。
急いで人口を安定させないと、お腹をすかせた人の数はどんどん増え続ける。そうすると、栄養失調が蔓延するとともに、食糧を求めてこれまで以上に多くの森林を切ることになってしまうだろう。
全体像を見ずに、明日の食糧は確保できない世界銀行と国連の食糧農業機関(FAO)が出している食糧生産に関する公式予測を見ると、食糧生産能力は今後も過剰であり、穀物価格は下落し続けるだろうと書いてある。しかしながら、この予測は非常に狭い知識をもとに立てられており、誤解を与えるもので中国のような大国が穀物を大量に輸入するようになるにつれ、食糧経済の供給側に対する食糧生産の公式予測が甘すぎるがために、政治のリーダーや経済企画担当者は、「食糧安全保障は大丈夫なのだ」と誤って思いこんでしまう。
その結果、農業や家族計画に十分な資金を投入せず、その大きなツケは将来の世代に回りかねない。世銀とFAOが出した2010年までの公式予測値は、細部は多少異なるものの、ほとんど同じだ。

どちらの予測も過去の傾向をそのまま将来にまっすぐ伸ばしたもので、2010年まで世界には農業生産力は余っており、小麦やコメその他の穀物の価格は下落し続けるとしている。しかしどちらも、食糧生産の伸びに歯止めをかける要因が出てきていることを、ほとんど考えに入れていない。
それは、肥料を増やしても反応が鈍くなってきていることや、水不足、深刻な土壌侵食、地球の気温上昇の破壊的影響など、第一部で説明した諸傾向である。食糧価格に関しては、世銀とFAOの予測は、現実からまったく離れてしまっている。
確かに、穀物価格はこの50年間下落してきた。しかし、世界の主要穀物の一つである小麦の価格は、この三年間に39%も値上がりしているのが現実だ。
コメやトウモロコシの価格も上昇し始めており、長らく続いたこれまでの傾向が逆転し始めてる負担がますます重くなってきている。実際には、世界最大の穀物生産国である中国は今、工業化に伴う多大な耕地の喪失に苦しんでいる。
公式の数字によると、中国では推計一億2000万人の労働者が農村を離れ、都市に流れ込んでいる。政府では、この1億2000万人を、最終的には工業セクターで採用しようと考えている。
中国の工場での平均従業員数は約100人だ。
つまり、1億2000万人を工業セクターで雇おうとすると、一○○万もの工場を新しく建てなくてはならないのだ。

このうち、多くの工場は耕地をつぶして建設せざるを得ない。インドの場合はどうか?
今後2030年で約六億の人口増加が予測されている国だ。現在抱える人口9億8800万人に、日本の人口の五倍近くが加わるということになる。
この六億人の住む場所を考えただけでも、約7500万の住宅を建てなくてはならない。村に家を建てようと、都市部にアパートを建てようと、必要なだけの住宅を用意するには、広大な面積の肥沃な農地をつぶすことは避けられない。耕地が減っていく原因は、産業の発展だけではない。
土壌侵食も大きな原因である。最もドラマチックな例がカザフスタンだ。
カザフスタンは中央アジアで最大の穀物生産国で、旧ソ連が行った劇的な農業生産拡大の舞台となった。旧ソ連及び中央アジアの穀倉地帯だったのだ。
しかし、旧ソ連時代に農業が拡大された地域は、ほとんどが耕地として使えるかどうかという土地だった。

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